屋久島の森の姿
■スギ自然林の本来の姿
標高500mを越えると照葉樹林の中にひときわ緑濃い屋久杉が点々と姿をあらわします。 屋久杉の森のはじまりです。
私たちが見なれている杉林は木材を得るためにスギだけを植林した人工林です。
屋久杉の森といってもスギだけの森林ではありません。屋久杉やツガ、モミなどの針葉樹とさまざまな広葉樹をいっしょに見ることができます。
このように多種類の樹木が混成しているのが自然林本来の姿です。針葉樹と広葉樹がつくる屋久杉の森は温帯にある日本を代表する森林の姿です。
標高の低い所ではシイやカシの中に点在する程度の屋久杉ですが、700mほどになると数が多くなり、ツガなどと合わせて針葉樹林といえるような様相になります。
屋久杉の森と呼ぶにふさわしい森林で、有名な巨木は殆どが1300mほどまでの間にあります。
1000m付近を境に、しだいに照葉樹林の樹木が少なくなり、秋には紅葉して葉を落とすナナカマドやハリギリなど北国の樹木もあらわれます。
このあたりからは、ブナ林のような落葉樹を主とした森林になる気候です。
ところが、屋久島ではブナが見られず、屋久杉と常緑広葉樹のヤマグルマが優勢で、冬も緑の森が広がっています。
ブナは氷河期に大隅半島までは南下したのですが、屋久島へはたどり着かなかったようです。
スギは新しい種であるブナに負けてしまうというのが通説です。光を好むスギよりもブナのほうが、より暗いところで生育できるからだといわれています。
屋久杉が主役である森林が維持されているのは、有力な競争相手であるブナが存在しないこともひとつの理由です。
1700mを越える高山地帯では、屋久杉も白骨化して特有の高山景観をつくっています。
温暖な照葉樹林に姿をあらわした屋久杉も、亜寒帯に近い気候の山頂付近では樹氷を身にまとった姿で冬を過ごします。
スギは日本の森林地帯に広く分布している樹木です。屋久杉もスギの南限である暖温帯の照葉樹林から、北限に近い冷温帯の山頂部まで、広範囲に見ることができます。
■受け継がれる森(世代交代)
屋久杉は数千年という巨木で知られていますが、小杉と呼ばれる数百年のものや生まれたばかりの実生も多数見られます。
老木ばかりで死に絶えてしまうことはなく、世代交代がくりかえされて生命が受け継がれ、森林が維持されているのです。
暗い森では巨木が倒れてできる明るい場所に、光を好む屋久杉が生れます。
倒木更新と呼ばれる現象で、多くの場合、光が当たりやすい倒木の上に成長します。
他に、山崩れの跡に幼い屋久杉が群がって再生する例もあります。
60mを越える風が吹き、一日に1000ミリもの雨が降ることもある屋久島では、倒木や土砂崩れがひんぱんに起こっています。
災害ともいえる森林の破壊ですが、この現象が若い命を誕生させ、活性的な森林生態をつくりだしているのです。
また、江戸時代に屋久杉を抜き切りした跡の明るい場所にも、次の世代の屋久杉が誕生しました。
倒木更新と同じ仕組みですが、伐採の影響による現象ですから切り株更新と呼んでいます。